年間5兆円を売る自販機が直面している課題

日本の自動販売機に”500万台割れ”の危機!
街かどの自販機の「悩み多き最新事情」

日本は、普及台数ベースでは米国に次いで世界第2位の“自動販売機大国”。台数ベースでは、米国の690万台に対し、日本は510万台弱と第2位だが、人口一人当たりの自動販売機台数や、自販機での総販売金額では、日本が世界トップを走っている。

しかし、いま、日本の自販機の最新事情を見ていくと、そこには「深い悩み」を抱えているようだ。

というのも、2000年以降続いている「自販機の退潮」傾向に歯止めがかかっていないからである。

ピークと言われた12年前の2000年には、日本全国に設置されている自販機は、561万台を数え、自販機を通しての総売上金額は、7兆1123億円を記録していた。
それが、年を追うごとにわずかずつ減少し、最新の2011年12月末のデータでは、自販機の台数はピーク時と比べると9%減の508万台、総売上金額は25%減の5兆3023億円億円という水準まで落ち込んできている。

とくに、最近1年間では台数で前年比2%減となっている。このまま行くと、「500万台割れ」の危機が現実のものとなってしまいそうな状況なのだ。“自販機不況”という言葉も出ているほどなのである。

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店頭での安売り攻勢の影響で
飲料自販機の採算が悪化→撤退が増加中

自販機低迷のいちばんの原因は、自販機の普及台数で約50%のシェアを占めている飲料自販機の落ち込みだ。清涼飲料・コーヒー飲料・アルコール類の自販機が、それぞれ4〜7%減少しているのが大きく響いているから、ということがわかる。そこに加えて、未成年者への販売規制が厳しくなっている「たばこ自動販売機」が前年比で1割以上減少、両替機やパチンコ玉貸し機などが1割減少していることも目立つ。

もともと日本が自販機大国になったのは、置いていても荒らされる心配が少ないという“治安の良さ”、メカニカルなものへの興味が強い“、国民性”、多種多様な食を受け入れている“食文化”、などが背景にあると言われている。これまでも飲料メーカーなどが「自販機での販売は値引きがなく、採算が良い」というのが強力な推進力になってきた面がある。

ところが、いま、スーパーマーケットやディスカウント店での店頭販売では、飲料は「安売り商品の目玉」になっている。
そのため、人通りが少ない地域で、売り上げが伸びない自販機や、乱立気味で競争が激しくなっている地点の自販機では、「缶飲料で定価120円」という定点ラインが崩れ、「100円で販売」といったディスカウントを余儀なくされている。

メーカーの過剰な在庫を引き取って、自販機で「安売り攻勢」をかける勢力も登場し、過当競争の状況は強まっている。
自販機は、放っておいても電気代がかかり、商品の入れ替えなどでの手間やコストもかかってくる。売上げが伸びない自販機が撤去されるケースが多くなっているのである。

しかも、これまで自販機設置が広がる拠点となってきた企業や工場でも、売上げが伸びず、撤去が進んでいることや、東日本大震災以後、ライフスタイルの変化で、水筒を持ち歩く人が増えていることも自販機販売には逆風になっている。「自販機ビジネス」はいま、大きな転換期に差し掛かっていると言えるだろう。

利用者の属性を見て「おススメ商品」を提示
売るだけじゃない!自販機が登場

しかし、そんな逆風の中でも、自販機市場は、次世代タイプとも呼ばれる「進化型自販機」が登場したり、一風変わった『おもしろ自販機』や次々と登場している点が面白いところ。

最近、話題になったのは、エキナカでの自販機で売上実績を伸ばしているJR東日本ウォータービジネスが、首都圏の品川駅や恵比寿駅などに設置した「マーケティング機能付き自販機」。
同社は、これまでも各種ブランドが1台に混在する“ブランドミックス型”や“SUICA対応型”などを投入して、市場に新風を起こしているが、この「マーケティング機能付き自販機」は、自販機の前に立った購入者の属性(性別や年代)を判別して、“おススメ商品”などを提案する、という新たな機能を持っている自販機である。

オムロンの画像認識装置が使われ、購入者(自販機の前に立った人)の顔型、目や鼻の特徴から性別や大まかな年齢層を解析するという技術が盛り込まれている。
購入に結びついたデータは、リアルタイムで蓄積、分析され、次の販売提案に反映されていく仕組みになっている。

「これまでリンゴなどの果汁飲料は、若いOLの利用者が買っていくものとばかり考えていましたが、夕方になると、20〜40歳代の男性のビジネスマンが購入の中心になっていることがわかりました」と言う。ちょっと疲れたときや小腹がすいた時に、「リンゴ・ジュースを一本」といったことが、自販機で確認できたという。

従来の、時間帯や地域別の販売特性に加え、購入者特性などのデータも加わってくることで、「いつ・どこで・どんな商品が売れる」というだけでなく、重要な「どんな人が」という情報が得られることになり、本格的な「モノを売るだけじゃない自販機」「お客さまに合った商品をお薦めする自販機」の分野が大きく広がる可能性がでてきた、と言えるだろう。

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食品以外の意外な商品を売る『おもしろ自販機』や
その場で調理する自販機も登場!

自販機に乗る商品?もますます多種多様になってきている。
バナナ自販機に続いて、登場したのはカットされたリンゴ(ふじ)を袋詰めで売る「シャキシャキ・リンゴ自販機」。リンゴは「皮付き」と「皮なし」が選べ、一袋190円でリンゴ半個分といった値段で、思った以上にシャキシャキとして、甘いリンゴが提供されている。

スーパーへ行く手間が省けるという自販機も次々と登場。こだわり派も満足できるような商品が並んでいる「焼き肉のたれ自販機」「そばつゆ自販機」「ドレッシング自販機」をはじめ、地方版では「納豆自販機」、秋葉原にはその場で作ってくれる「ポップコーンFUKUらむ自販機」が登場しており、3つの味(バター味・キャラメル味・イチゴミルク味)が選べるようになっている。

飲料・食品だけではない。本を売る「文庫本自販機」、ちょっと変わった「運転免許の問題集自販機」、歴史ロマンが味わえる「古銭自販機」、苗字を選んで買う「ハンコ自販機」、さまざまなタイプのフレームが選べる老眼鏡の「メガネ自販機」、愛車?がクラッシュしてしまったときにすぐ対応できる「ラジコン・カーのパーツ自販機」、一人当たり10万円の販売も有り、というのはゴールド販売会社店頭に置かれている「金貨・純金バー自販機」である。

購入者へのサービスという面からは、羽田空港ターミナルにあるコカコーラの自販機では、1本買うとCMに出ているタレントが画面上で挨拶してくれたりする。
また、コインを入れたり、飲料を買ったりすると、そのたびに東北弁で対応してくれる「方言おしゃべり自販機」もあるという。盛岡弁・仙台弁・福島弁のパターンで「いつもかってくっちぇどうもない(いつも買ってくれてありがとう)」(福島弁)、「おづりとってかんよ(お釣りをお忘れなく)」(仙台弁)など、いくつも言葉で話しかけてくれます。しゃべる自販機には、名古屋弁、博多弁など各種あるそうだが、「関西弁はややうるさすぎる」という声もあるそうな。

海外にも異色の自販機がある。
イタリアでは、注文すると生地をこね、ソースやトッピングをして、2分半ででき上がる「アツアツ・ピザ自販機」、フランス・パリでは、パン屋さんの店先に夜中でも焼き立てが買えるフランスパン「バゲット自販機」といった本場ならではの自販機がある。
アルゼンチン・サルタ州にはラグビーのタックルをぶちかますとビールが出てくる「ラガーマン専用自販機」、シンガポールの大学構内には抱きしめるとタダでコーラが出てる「抱きしめて!自販機」、南アフリカでは、自販機向けにハッシュタグを付けてツイッターを送ると、アイスティーの試供品が出てくる「Twitter自販機」・・・。
これらの異色自販機も、いずれ日本に上陸してくるかもしれない。

日本では、東日本大震災後の節電ムードのなかで「電力消費」がヤリ玉に上がった自販機だが、日本自動販売機工業会では「最近の自販機は、節電モードが進んでおり、かなりエコになっている」と言う。同時に、自販機は、災害時に、無料の商品供給拠点になったり、非常連絡基地の役割を担ったりする機能を有しており、AED(自動体外式除細動器)を搭載した自販機もある。

自販機というと、近代の工業化に伴って登場してきたと思われがちだが、その歴史は紀元前215年ごろまでさかのぼり、古代エジプトで寺院に置かれた「聖なる水の自動販売機」がそのルーツで、日本でも、明治21年(1887年)に発明家・俵谷高七(たわらや・たかしち)が「たばこ自販機」、「切手・葉書自販機」を開発したのが普及の原点と言われている。

そこから、120年以上経ったいま、自販機は進化のスピードを上げ、単にマシンと言うより“無人販売ロボット”という面が強くなっている。普及台数面での縮小は続きそうだが、よりエンターテインメント性を強め、情報機能・マーケティング機能を高める方向はさらに加速し、私たちの生活のなかに溶け込んでくると言えるだろう。未来志向を強めた次世代自販機の登場に目が離せない。

〔掲載データ出典元〕

日本自動販売機工業会