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輪切りで見る日本の「こんなこと」。その断面図を「絵とき」してみました
GPSやセンサー機能活用で健康管理も。悩みは「医療費」
『現代ペット・ワンチャン事情』
生涯費用は404万円?
広がり続く新ビジネス、高齢化で介護問題も!
「“ウチの子”にもけっこうお金がかかるのよ…」、と言っても、これはペットのワンちゃんに関する話。
日本でここ数年続いてきた消費低調ムードの中でも、「ペットにかかる費用」は毎年、高水準を維持しているのである。
ペット関連のビジネスは、「いまや、商品でもサービスでも、人間にあるものは、すべてある」と言われ、矢野経済研究所の調査によれば、2013年のペットビジネス市場は1兆4285億円と、前年比0.4%増。2011年度以降、1兆4000億円台をしっかりキープしているという。
「ワンちゃん」への生涯費用は5年間で63%も増加
ペット保険大手のアニコム損害保険が、毎年、ペット保険『どうぶつ健保』の契約者にアンケート調査を行っているが、そのデータによれば、ペットの犬に関する年間支出金額は、2013年平均で33万7034円になっているという。
2008年には20万8000円だったので、この5年間で63%も増加したことになる。総務省の調査では、同期間の1世帯当たりの総消費支出が3.6%マイナスとなっているのと比べると、その消費パワーの強さがハッキリしている。
この中身を見てみると、食費(ペットフードやおやつ)、洋服代などは横ばいなのだが、病気やケガの治療費、しつけ・トレーニングのための費用、ペット保険料、カット・トリミングなどの項目で、出費が増えている。
さすがに、ここ1〜2年は「ゼイタク関連の消費は横ばいになっている」と言われてはいるが、サイフのひもが締まったというより、ペットビジネスの競争激化で、食品やサービス単価が下がったという面もある。
犬の飼い主が、費用のかかる項目として挙げたのは、
1)「食事としてのペットフード代やおやつ代」
2)「病気や怪我の治療費・医療費」
3)「カットやトリミング代」
4)「ワクチンなどの予防接種代」
5)「ペットの保険料」
が上位にきている。
現在、日本国内では約1154万匹の犬が飼育されている。(一般社団法人ペットフード協会調べ)。
従来のペットブームと大きく異なっているのは、飼っている犬は「ペット」としてではなく、いまや「家族の一員」として扱われていることである。家の中で飼うのは当たり前、「餌(えさ)」ではなく「食事」、衣装や、室内飼育に欠かせない(トイレ用)シーツにお金をかけるのは当然のこと、となっているのである。
飼育にかかる生涯費用を試算してみると…
家族環境や社会環境が変化し、単身者世帯、少人数家族世帯では、ペットの犬はもはや「完全なる家族」である。
室内で飼うため、人気犬種は小型犬・中型犬が上位を占め、ジャパン・ケンネルクラブの話では、トイプードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフンド、柴犬・豆柴(柴犬の小型犬種)、シーズー、ヨークシャー・テリア、ポメラニアン、パピヨン、マルチーズなどが人気を集めているという。
では、家族である犬に、どれ位の費用がかかっているのだろうか。
犬の平均寿命を平均して約12年(人間の年齢換算で64歳)として計算すると、食費、通常の医療関係費、トリミング代などの日常経費のほか、ペット保険代、洋服やトレーニング代、ペットホテル代などの出費を加えると、生涯費用は約404万円(小型犬、中型犬、大型犬平均)ということになる。
小型犬は、日常の食事は少ないため費用が少なくて済むが、愛玩動物としての要素が高いため、カット・トリミング代、洋服代や医療関係費に多く費用をかけるケースが多いという。しかも、費用面には含まれていないが、購入代が10万円〜25万円と高い。
一方、ラブラドルレトリバー、ボクサーのような大型犬では、トリミングなどへの出費は少ないものの、食事代が大きな割合を占め、ペット保険料やトレーニング代なども高くなるので、平均生涯費用も中型犬に比べると50万円以上は増加すると推計されている。
「顔認証」で迷子探しも。
さらに進む「ペット関連ビジネス」の多様化と高度化
ペット関連ビジネスは、従来、ペットフード、美容・トリミング関係、ペットシーツなどのペット用品、(人の)旅行の際のペットホテルなどがそのほとんどを占めていたものだが、そのカテゴリーの広がりや、新たなビジネスの登場には目を見張るものがある。
特に、飼い犬の7割が“室内飼い”ということもあって、スポーツジム、ダイエット関連が主役の位置になってきている。
東京大田区久が原の「愛犬のためのフィットネスクラブ・エルぺロ」は、犬専用のランニングマシン、筋力トレーニングバランスボール、マッサージなどのメニューが用意されており、犬の健康を熟知したトレーナーが指導にあたる。最近では、犬用の「流れるプール」を備えた施設や、「水中歩行」メニューをラインアップしているジムも出てきている。
また、最近では、スマホ・タブレット活用、GPSやセンサー機能を活用したペット関連機器が次々と登場してきている。
NTTドコモでは、2014年3月にスタートさせた『ペットフィット』が着実に伸びているという。
これは、愛犬の首輪に装着するだけで、離れた場所からでもスマホを通じて、犬が寝ているか、遊んでいるかなどが計測でき、歩数、移動距離、カロリー、睡眠時間など日々の健康管理に役立つデータを収集して見ることもできるというもの。食事量の目安などもわかり、獣医師の監修コメントまで届くサービスが付帯できる。
また、万一、愛犬が迷子になってもGPS機能を使って、位置が判明するという。
同様に、富士通の愛犬健康管理機器『わんダント』は、犬の首に装着するだけで、日常の歩行歩数やブルブルが計測・記録されていくもので、「シニア犬を飼っている人からの需要が多い」という。
セコムは『ココセコム』機能の応用で、ペットの位置把握サービスを開始している。
海外の例では、米国では「顔認識ソフト」を使ってペットが迷子になった際に、探し出すiPhoneアプリ『The Pip APP』※が実用化され、実際に効果を挙げている。
米国では、年間に400万匹以上もの犬が行方不明になり、市当局や保護観察局の保護される犬も多いというが、ペットの顔の画像をアップロードすると、近所などで保護された犬のデータと照合し、迷子になったペットかどうかがわかるという仕組み。捜索活動もますますハイテク化されてきている。
※The Pip APP:http://www.petrecognition.com/
飼い主の悩みは「医療関係の出費増加」
小型犬の割合が増えてきたため、ペットフードは、数量的には出荷量はマイナスとなっているが「食の高級化」の波が大きく、最近では「プレミアムフード」と呼ばれる、健康やグルメなどの付加価値をアピールした高価格帯商品の売行きが伸びている。
エコノミークラスのペットフードが1〜当たり100〜200円であるのに対し、プレミアムフードは1〜当たり1000〜2000円と、約10倍の価格差があり、「無添加・無着色、防腐剤不使用」や「動物性たんぱくの高さ」、「穀物不使用」をキャッチフレーズにしているものも多い。
ただ、その一方で、人間と同じように、ペットのワンちゃんにも増えているのが『隠れ肥満』だという。
花王と大和製衡が共同開発し、発売しているのは、犬の体脂肪を測定できる『ヘルスラボ 犬用体脂肪計』で、全国の動物病院で犬のメタボ検診に使用されている、という。
「犬の体脂肪率は、犬種や性別、健康状態によって変わることが多く、個体差もあるので、判断は難しいのだが、適正の範囲の目安は体脂肪率20〜29%と言える」(獣医師の話)
「腸ねん転」での入院・手術で約20万円
ペット保険への加入はいまや当たり前?
しかし、犬が大きな病気もせず、比較的健康な生活を送った場合ならば、通常の医療関係費負担はそう大きくはない。だが、もし、家族である犬が重い病気に罹ったような場合、事情は大きく変わってくる。
「動物クリニックなどで診察・治療を受けると、検査などで1回1〜2万円はすぐかかってしまう」、「病気をよくする子なので、血液検査と注射・薬代などで1〜3万円はかかる」、「動物病院によって、診療代の差がけっこう大きい」という声が飼い主から聞こえてくる。
アンケート調査では、犬の飼い主の年間平均の医療費出費は5万1592円といったデータもある。
人の場合は、公的な医療保険で治療費の一部が負担され、自己負担分が軽減されるが、ペットの場合は、もし「ペット保険」に入っていなければ、全額が自己負担となってしまう。
しかも、獣医師の診療料金は、独占禁止法により、獣医師団体(獣医師会等)が基準料金を決めたり、獣医師同士が協定して料金を設定したりすることが禁じられているため、病気や怪我による治療費に明確な指標がない。つまり、現行法のもとでは、獣医師は各自が料金を設定し、競争できる体制を維持しなければならないことになっており、したがって動物病院によって料金に格差があるのはやむを得ない状況なのである。
ペットのワンちゃんがもし病気や怪我などを負ってしまった場合、その治療費は思いのほか、かかってしまう。
ペット保険の最大手であるアニコム損害保険が、一例として示している犬の骨折による治療費(手術1回、入院7日間)の場合では、手術代約12万円、入院料6万8000円を含めて、治療の総費用は26万7840円かかってしまう。
相模が丘動物病院が公開している費用でも、呼吸器科初診料で6万3000円、気管内腫瘍に対する気管支鏡治療では約20万円。あいち犬猫治療センターが示す一般的な治療費では、体表腫瘍手術で約5万円、結石等の除去手術で11万円(入院費を含まず)といった例が公開されている。
腸ねん転で10日間の入院・手術治療が必要な場合となったら、入院料・CT検査・縫合手術・全身麻酔・抗生剤注射などで、総費用は20万円を超えるとみておいたほうがいいだろう。
しかも、最近では飼い主のニーズに応える形で、ペットに「高度医療」を施すケースも多くなっているという。
大阪府立大学・獣医学科付属病院や、神奈川県の日本動物高度医療センターでは、ペット用のMRI(核磁気共鳴診断装置)や集中治療室(ICU)、PET(陽電子断層撮影装置)などを設置し、従来では診断や治療が難しかったペットの病気や怪我を最新医療で治療する体制を整えている。
最新鋭の医療機器を使ってペットの疾患の治療が行われている。高度医療となれば、当然に、治療費も相当な金額になってしまう。
また、かまくら元気動物病院のように「犬の鍼灸治療」を行い、「東洋医学と西洋医学を融合させて、動物に優しい治療」をアピールするペット病院もある。
犬の飼い主であれば、「足を引きずったりする怪我や出血」「嘔吐や下痢」「異物を飲み込んでしまった」「食欲がなくなる」「便に血が混じる」「咳やクシャミをよくする」「身体をかゆがる」…といったペットの症状は飼い主の誰しもが経験する。
「ペットの健康状態を非常に気にかけている」という飼い主は、いまや全体の40%を超えており、それだけペットが病院での診察を受ける機会も増えている。いまや「ペット保険への加入は当たり前」の状況になってきていると言えるかもしれない。
「最後はペットと一緒のお墓に」を希望
介護・葬儀・埋葬などペットの終末期費用は…
2013年に住宅機器メーカーのLIXILが58歳以上のシニア世代に行った「犬と暮らすセカンドライフ調査」のアンケート結果では、「犬と過ごす時間と、配偶者と過ごす時間とでは、どちらが大切か」という問いに対し、女性の51%が「犬と過ごす時間」「どちらかというと犬との時間」と答えた女性は全体の51%に達している。ちなみに、男性は19%に過ぎなかったのだが…。
いま、犬の世界で大きな問題となっているのが「高齢化問題」である。
犬の場合の「シニア世代」は7歳からといわれているが、すでに飼い犬の約51%が7歳以上になっている、という。15歳(人間の年齢で76歳)以上の犬も珍しくなく、3頭に1頭は10歳(同56歳)以上と言われている。
そこで、当然のように「介護」の問題が起こっている。
歳とって、歩行がおぼつかなくなった犬のための「後ろ足用ハーネス」や、「老犬用おむつパンツ」、「床ずれ防止ベッド」、「老犬介護サービス」などの需要も増えているという。老人世帯で老犬を介護する「老老介護」の問題も生じており、民間資格だが「ペット介護士」という資格も生まれている。
そして、悲しいことだが、ペットの終末には、葬儀・埋葬の現実課題が浮かび上がってくる。
ペットが「家族」となったことで、犬にも手厚い葬儀が行われるケースが増えており、火葬費用だけでも小型犬で2〜3万円程度、大型犬では5万円ほどかかる。飼い主などが立ち会って、住職に読経などを上げてもらうケースでは、プラス2万円ほど費用がかかってくるのが一般的だ。
また、埋葬では全国にペット専用霊園も増えており、納骨堂に収める場合で使用契約料で初年度3〜5万円、管理費で年5000円程度は必要だ。
さらに、墓石などを整えた墓地を用意するとなれば、初期費用で20〜50万円、年間管理費で1万円程度は見ておかなければならないようだ。
最近では、ペットを「人間と同じお墓に入れたい」と希望する飼い主も増えている。人と一緒に埋葬する場合は、ペットは法律上「副葬品」と解釈され、「宗教的感情に適合していれば、埋葬できるかどうかは墓地の管理規約の定めによる」とされる。
一般的には「ペット可」をうたっている墓地・霊園に限られることになるが、最近では霊園の中に「人とペットは一緒のお墓に入ることのできる区画」を設置している霊園が増えており、首都圏だけでも約30カ所あるという。
生涯費用試算には、これらの葬儀・埋葬費用は勘案していない。
約300〜500万円の生涯費用も、「家族の一員であれば費用がかかるのは当然のこと」、と受け止めている飼い主も多い。
犬一匹を、一生涯責任持って面倒を見るためにも、どのような項目で、どのくらいの支出が必要か、生涯通じて大体どのくらいの費用がかかるかを掴んでおく必要があると言えるだろう。
〔掲載データ出典元〕