北極海の「資源」と「航路」を巡る主権争いは、”連合軍形成”の新たな局面に!

ロシアはノルウェーやメジャーと連携。"非沿岸国?"の中国の外交も積極化

 
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  (us news&world report: Stephen Rountree)

 

『眠れる資源の宝庫』と呼ばれている“北極海”をめぐる情勢が、大きく変化しそうな雲行きになっています。

というのも、この4月20-25日、中国の温家宝首相がアイスランド、スウェーデンなどを訪問し、積極的な“資源外交”を展開したというニュースが流れたからです。

表向きは、ボルボ社の見学訪問、工業博覧会での基調講演ということですが、なにしろ、中国の資源外交の強さは、アフリカ諸国や南米でのレアメタル資源外交で証明済み。以前から、北極海に関しては『強い関心と控えめな挑戦』という姿勢を持っていただけに、北欧の国々への接近が関連諸国の注目を集めているというわけです。

 

また、北極海のもっとも強い意欲を見せるロシアでも、プーチン首相(5月には大統領就任の予定)が新たな動きを見せています。

2008年に「地下資源法」を改正して、石油などの採掘権は国営企業であるガスプロム社とロスネフチ社に限定し、外資の影響を排除していたのですが、昨2011年8月にはロスネフチ社と米国石油メジャーのエクソン・モービルとの提携に合意、ここへきてさらにイタリアの炭化水素会社・ENI社と資源開発技術に関する提携を合意させ、そのどちらもプーチン首相自らが調印式に出席するという熱意を見せたのです。

 

北極海が注目されている2つのポイント

世界地図を広げると、いちばん上の位置にある「北極海」。

ここ数年、この北極海をめぐって、周辺のロシア、アメリカ、カナダ、ノルウェー、デンマークの5カ国が「緊張状態」を続けています。しかし、その5カ国だけでなく、北極海の“権益”の帰趨は、世界各国の勢力図に大きな影響をもたらすものと言えます。

 

●ひとつは、とにかくその海域に眠っている、未開拓の資源が膨大であることです。

米国の内務省地質研究所(USGS)が2008年に発表したところによれば、「世界の未発見で、掘削可能な原油・天然ガス資源の22%は北極海にある」そうです。

原油では約900億バレル。これは世界で年間に消費される原油量が約300億バレルであることを考えると、そう大きな量には見えませんが、サウジアラビアやロシアなどの原油大国の資源や油田などが「すでにピークを過ぎ、枯渇に向かっている」ことを考えると、とても魅力的な埋蔵量と言えそうです。

しかも、各国が牽制し合っているため、まだ本格的な科学調査が行われておらず、資源埋蔵量は推定値でしかなく、「原油の埋蔵量は1600億バレルに達する」と予測する資源コンサルティング会社もあります。

 

さらに、資源として有望なのは天然ガス・液化天然ガスです。デンマークと米国の資源研究チームの発表によれば、「北極海領域には、約43兆立法メートルもの天然ガスが埋蔵されている」と説明されています。これは世界の天然ガス年間消費量(約3兆立法メートル)の14年分に当たる量で、しかも、好都合なのは、これらの天然ガス資源や原油資源のほとんどが水深500メートル程度の浅いところに埋蔵されているということなのです。

 

もちろん、エネルギー資源だけではありません。鉱物資源としても、金(ゴールド)、ダイヤモンド、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、プラチナなどの鉱物資源でも、世界でも有数の規模を持つ鉱床が北極海に眠っている、と予測されています。北極海の資源権益を確保できれば、資源大国の道は自然と約束される、というわけなのです。

 

●もうひとつは、北極海を通り抜ける新航路を開くことができれば、莫大な価値が生み出せる、という点です。

 

いま、地球温暖化で北極海の氷がドンドン溶け出しており、観測史上、氷で覆われている面積は過去最少の記録を更新し続けている」(米・NASA発表)という状態です。

そのため、従来は、厚い氷に閉ざされて通行不能だった北極海周辺は、いまや夏場には一部が通行可能なルートが浮上し、数年後には、一年中の航行が可能なルートが開拓できそうな状況になってきているのです。

 

大西洋から北極海を経由して太平洋へ出ることができる新たな海洋航路ルート『北極海航路』は、実現すれば莫大な?価値“を生み出すものです。

 

これまで大西洋と太平洋を結ぶのは「スエズ運河」「パナマ運河」経由が主な通常航路でした。例えば、ロッテルダムから上海へ抜けるには現在は1万2107マイルの航行ですが、これが北極海の脇をすり抜けることができれば、9297マイルで済むようになります。同様に、バンクーバーからロッテルダムでは1万0262マイルが8038マイルとなり、航行距離にして約40%の節減になるのです。大手海運会社の担当者は「これまで30日ほどかかるルートが、北極海ルートなら20日で行ける。航海日数が減るのはかなり魅力」と話しています。

いま、世界の国際間輸送の90%は“海上輸送”が担っていますし、中国ではGDPの40%は海上輸送がからんでいると言われています。北極海ルートの支配権を握れば、その国は大きな経済的メリットを享受できるというわけなのです。

 

しかも、「10日間の時間節約」となれば、その軍事的な意味は計り知れないものがあります。欧州・米国・アジアのつなぎ目で、10日間の優位性が発揮できれば、戦略的にも大きな影響が出てくるでしょう。カナダ、ロシアをはじめとする各国は、この北極海ルートを手中に収め、自国の管轄下に置きたい、というのが大きな狙いなのです。

 

海底に国旗を打ち立てた“ロシアの挑発”で、冷戦からホットな闘いに

北極海をめぐる争奪戦が緊迫度を増したのは2007年夏のことです。ロシアが仕掛けたパフォーマンスがキッカケでした。

 

2007年8月2日に、ロシアは深海潜水艇「ミール1号」「ミール2号」を北極海に投入。海洋学者であるアルトゥール・チリンガロフ下院副議長をはじめ、計6人の乗組員を乗せて、北極点付近の氷に穴を開け、「海洋調査」という名目で、深さ4300メートルのロモノソフ海嶺の海底にまで到達させたのです。

ロボットアームを使い、土壌を採取。あろうことか、その海底にチタン製の高さ1メートルの「ロシア国旗」を立ててしまったのです。

 

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なぜ、チタン製の国旗にしたかという点について、チリンガロフ氏は「チタンは腐食しない。これで100年後、1000年後も北極海ではロシア国旗を見ることができるだろう。北極海は我々のものである」とコメントしました。

この北極海での一連の調査活動は、国営ロシアテレビで生中継され、プーチン大統領(当時)が「歴史的快挙だ!」とわざわざ現地へ電話し、ロシア・メディアは「ガガーリンと並び称される快挙」と表現する始末。チリンガロフ氏が乗り込んだ深海潜水艇「ミール1号」は定員3名。もう一人はグルズデフ下院議員で、純粋な科学者は一人だけでした。チリンガロフ氏は、この功績を称えられて、ロシア連邦政府から最高称号「ロシア連邦英雄」の称号を贈られています。

 この「挑発的行為」にカチン!と、きたのがカナダです。

カナダは、従来から北極海に熱い視線を送っていたこともあり、当時のマッケイ外務大臣が「15世紀や16世紀でもあるまいし、旗を立てただけで『我々のもの』と主張するおかしな国もある。北極海はカナダのものであり、脅威などない!」とコメントを発表。

さらにハーパー首相が北極海に面するマニトバ州で、北極グマの観察を行い、「私は首相就任して以来、毎年、北極海を観察してきた。北極圏でのカナダの主権を明らかにすることは、政治的な優先課題である」と発表。すぐに沿岸のレゾリュート湾に2つの軍事施設を建設することを明らかにしています。2008年8月には陸海軍兵士600人のほか、沿岸警備隊や警察なども加わった大規模軍事演習『オペレーション・ナヌーク(北極グマ作戦)』を展開しています。

 

他の国も黙ってはいませんでした。

「北極点脇に広がるロモノソフ海嶺は(デンマーク領)グリーンランドの延長である」という主張を声高に叫んでいるのはデンマーク。ロシアが海底探査を行ったあと、デンマーク政府ではすぐさま科学者40人のチームを結成して、北極圏での調査活動を開始、海底地図の作成に乗り出しています。

これまでも、北極海の入り口付近にあるハンス島の領有権をめぐって、デンマークはカナダとも険悪な状況を作り出している。ハンス島というのは面積1300平方メートルと、わずか400坪以下の広さしかない小島なのです。

一方、「北極海でのエネルギー開発に実績を持っているのは我が国である」と主張するのはノルウェー。ノルウェー政府が70%を出資している石油開発会社スタトイル社が北極海の一部、バレンツ海でLNG事業「スノーヴィット」を展開しており、メルコヤ海域にはすでにガス精製施設まで所有しているからです。

こういった国々と比べると、米国は北極海の資源争奪戦でやや遅れた感が否めません。各国の動きを見てあわてて動き出し、「海底の測量を行うため」と称して、沿岸警備隊の砕氷船を急きょ、北極海へ出動させていますが、政府内や外交専門家の間には「焦り」があるとも言われています。

 

北極海での権利を守る原則は、かつてカナダ・ハーパー首相が放った言葉に集約されています。

『利用しろ、さもなければ失う』―――。

 

南極圏については1961年に南極条約が締結されたことによって、個々の国が領有権を主張できない取り決めが成立していますが、北極海領域には明確な取り決めがなく、いまだ「手つかず」の状態と言えます。経済水域や大陸棚の設定次第では沿岸のロシア、アメリカ、カナダ、ノルウェー、デンマークのどの国にも領有のチャンスがある、というわけなのです。

 

唯一、北極をめぐる協議の場は、1996年に設立された『北極評議会』です。

ロシア、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン及びアメリカの8カ国が参加する国際機構で、北極圏の開発や環境保護についての協議を中心に、北極圏の治療に関するルール作りを行う中核的機関です。

評議会へはすでにイギリス、スペイン、ポーランド、オランダ、ドイツ、フランスの6カ国のオブザーバー参加が認められていますが、“傍聴人”の立場を超えていないようです。

中国は、この北極評議会のオブザーバーとして、強く参加を求めているのですが、ロシアやカナダ、ノルウェーなどの反対にあっています。

 

そこで、北極海航路では、燃料補給や積み替え寄港地として「要所」となることが予想されるレイキャビックを首都に持つアイスランドに接近し、同国への経済再建を支える姿勢を表面化させ、さらにスウェーデンには「オブザーバー参加への後押し」を要請したと言われています。

  

 

それぞれが抱える“お家の事情”。連携路線も模索中

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いま、北極海をめぐる権益争いが、新たな局面を迎えているというのは、沿岸国にもそれぞれ“やむにやまれず”の「台所事情」や「お家の事情」があり、そのため、ここへきて連合チームを作ってでもコトを推し進めようという気運が高まっているためなのです。

 

ロシアは、いまやサウジアラビアと並ぶ世界トップ級の原油産出国ですが、主力のシベリア油田は、「あと数年で、枯渇するかもしれない」と言われ、新たな油田やガス田の開発が急務になっています。しかしながら、国営企業のガスプロム社、ロスネフチ社は「資源開発技術のレベルに関してはかなり遅れている」という評価で、あまり頼りにならないのが現実です。実際、北極海沿岸での資源探査は15年も技術的な問題から停滞しており、他にも資源開発がストップしたり、停滞したりしているケースが多いのです。

そのため、2011年には原油メジャーの一角である英国・BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)に接近したものの、条件面で折り合わず破談に。ここへきて、米国エクソン・モービル、イタリア・ENI社との提携にやっとこぎつけた、というわけなのです。

さらに、2010年9月には、40年以上も資源係争を続けてきたノルウェーと、北極海のバレンツ領域などの海域を「ほぼ2等分するかたちで海洋境界画定条約を締結。お互い協力して開発を進める」ということで合意。従来の強気一辺倒から、妥協する姿勢を強めています。

 

ノルウェーにとっても、現在、同国の重要なエネルギー供給源である“北海油田”は、すでに、資源的には「底が見えた資源」ち言われており、膨大な天然ガス、原油、鉱物資源を有する北極海は、失うことができない地域なのである。「ロシアと手を組んででも・・・」という必然性があるのです。

 

デンマークも、北極海に接するグリーンランドが「自治権拡大、完全独立への移行」という姿勢を強めているのが大きな課題になっています。すでに、グルーンランドでは08年の住民投票で、圧倒的多数で自治権拡大が承認され、「グリーンランド自治政府」が動き出しています。

北極海の膨大な資源の権利もグリーンランドが独自の権益を主張してくるとなると、デンマークにとっては、「おいしいところが、かなり少なくなってしまう」というわけです。

2011年8月には、グリーンランド自治政府の主要閣僚が、中国政府の招待に応じて北京を訪問、独自に中国と急接近しています。

 

また、カナダは、2013年には北極評議会の議長国になることが決定しているのですが、

環境問題の面での瑕疵を抱えています。というのは、カナダ自体が、「京都議定書」を離脱し、「CO2の排出量を増加させている国」というレッテルを貼られてしまっており、北極海も含めた世界の気候変動問題に「リーダーシップをとれる資格はない」と見られているのです。

同じような課題としては、アメリカは、世界の海洋法の基準とも言われる『国際海洋法条約』に参加していない点がネックになると見られれています。深海底の開発に関して独自路線を走るという経緯から、国際海洋法条約を批准していないのですが、このため、今後、北極海権益で大きな争点となると思われる“大陸棚延長”に関して、国連大陸棚委員会に延長申請もできない事態が考えられています。

カナダとアメリカは、連携しての北極海調査活動や、軍事基地の交流などで、数次にわたる共同歩調が目立っています。航路に関する主張では隔たりがあるものの、やはり地理的な面からも、連携して「強硬派勢力」への対抗力を強めていく可能性が高いと言えるかもしれません。また、カナダは2010年5月にデンマークとの間で「北極の防衛・安全保障・作戦協力に関する了解覚書(MOU)」を締結し、この後の作戦上の協力関係を確認しており、アメリカとデンマークの橋渡し役になるかもしれません。

 

沿岸国ではありませんが、中国は北極海への熱視線では負けません。

このほど、66億円の費用をかけて建造した、最新鋭の海洋科学観測船『科学』には、現在の世界最先端の観測装置が搭載されており、この「科学」は「近い時期に北極海に向かうのでは?」、と見られています。ただ、中国にとっては、北極海に主体的に関わるには、是が非でも「北極評議会」のオブザーバーの位置を確保したいところですが、ここ数年、ノーベル平和賞の問題で、評議会で発言力の大きいノルウェーとの関係がギクシャクしているという課題を抱えています。

 

こう見てくると、いくつかの“連合軍”の構図が見えてきます。

・ロシア+ノルウェー+原油メジャー企業

・カナダ+デンマーク+アメリカ

・中国+アイスランド+グルーンランド自治政府

 

ただ、これらの関係は、常に流動的なパワー・オブ・バランスの上に成り立っているものですから、いつ、どこで組み合わせが変わるか予断を許しません。

 

ちなみに、日本も「北極評議会」へのオブザーバー参加の意思を表明しているのですが、国際的には、何の注目も脅威も与えていません。わずかに、港区にある民間企業の「ウェザーニュース社」が、北極海航路の気象観測、船舶の航行サポートのための超小型衛星をこの9月に打ち上げることが注目されています。溶けているといっても北極海の海氷の状況把握は難しく、各国から安全な航路情報のニーズは高まると見られているからです。

 

一時、『新たな冷戦構造の始まり』とも呼ばれた北極海をめぐる権益の争奪戦は、氷の溶解スピードが速まっているのに伴って、「資源」「航路」の主導権をどこが握るのか、「主権が確立するまで、まだまだ紆余曲折がありそうだ」と見ておかなければならないと言えます。

 

http://www.sof.or.jp/jp/index.php

 

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