第1回

「常識だよ!」と言われていることを外してみると、少し扉が開くことがある。

かつて「ミクロの鉄人」と呼ばれていた清田製作所の清田茂男さん。
清田製作所は、小さな有限会社で、従業員13名の、まさに町工場でした。しかし、清田さんが編み出した『コンタクトプローブ』は、その供給を受けるために最先端のエレクトロニクス企業や自動車メーカーが行列をつくったり、毎日、試作依頼のメールやFAXを送り続けるほどのものだったのです。

「鉄人」もカベに突き当たる!

コンタクトプローブというのは、超LSIや極小プリント基板、パワー半導体などの性能を検査する「精密かつ微小な針」のことです。検査装置の先端に取り付けられ、最先端のエレクトロニクス部品の性能をチェックしていく、重要な役割を担っているのです。
小さな町工場が、『日本ものづくり大賞』を受賞したり『第30回発明大賞』『科学技術振興功績賞』も受賞し、何度も周囲を驚かせたのです。(現在、その事業は「インクス」という会社に継承されています)

鉄人と言われた清田さんも、実は何度もカベに突き当たっています。
とりわけ、大きな壁だったのは、プローブの針先がドンドン微小化を求められ、百万分の1ミリという世界に突入すると、一秒間に何度も接触と非接触を繰り返す針はすぐ壊れてしまうという問題でした。
ごく細く、精密でなければ、検査性能に支障が出てしまいますし、細く、精巧になればなるほど耐久性は下がっていきます。
コンタクトプローブの世界では「より細く、より強い“針”をどうやって創るのか」という課題が常識だったのです。

2年も、3年も試作や研究開発を重ねましたが、思うような結果を出す針は創れません。

ところが、ある日、清田さんは「針という形じゃなくてもいいんじゃないか」と思いつきます。
目の前の視界が雲っていたのが、パッと晴れた瞬間でした。

そこから生まれたのが、従来とはまったく違うかたちの「積層型コンタクトプローブ」という、「極薄の板」のかたちをした製品です。
アタマに浮かんだのは「日本刀の不思議な強さ」と、会社の前を走っていた京浜東北線の「パンタグラフのようなクッション性」を併せ持つスタイルです。

試行錯誤しながら完成させた、薄い板全体がクッションの役割を持つこの積層型コンタクトプローブは、従来の針のプローブが、最大でも1万回程度の耐久性だったのに対し、500万回以上の超・長寿命を実現させたのです。
しかも、接触点はノコギリの刃のようになっているため、一度に何個もの超LSIを検査できるという効率の高いものだったのです。

「小さなモノ、細かいモノを作ろうとするとき、どうしても細部ばかりに目がいってしまう。でも、時には、もっと大きく考えて全体を見ると、そこに違った景色が見えてくるもんですよ」

それは、12歳の時、小学校を出た直後に、北海道の積丹半島から上京し、自転車工場、ハーモニカ工場で精密加工の腕を磨いてきた清田さんが、70年以上の経験の中で気がついた真理なのです。

「それは常識だよ!」と言われていることを外して、試してみると、少し扉が開くことがあるんです」

ちょっとだけの「常識外し」を!

「これって、常識なんだよ!」「うちの会社では、こういうやり方が当たり前!」といったことは仕事の現場や、会社ではよくあることです。
基本やセオリーは確かに大事なことですが、常識に含めなくてもいいこともそこに混ぜ込まれてしまっているケースも案外多いものです。
それは、製造業に限らず、サービスの現場でも同じですし、個人のアタマの中にも潜んでいる問題です。

「非常識になれ!」といっても、なかなか難しくて、簡単にできることではありません。
でも、一瞬だけ、一回だけ、ちょっとだけ「常識を外して」試してみると、違う道が見えてくるのです。
これまでの考え方や、物事の進め方などで、どうしても行き詰ってしまうとき、ちょっと常識を外して試してみることで、重かくて、動かなかった扉が少しだけギィーと音を上げて動くかもしれないのです。

 

 

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