日高尚人監督 インタビュー

「 “笑えるエンターテインメント”
 の世界を追い求めています!」

DSC_0042

 

「ショートフィルムの創り手に聞く」インタビューの第1回目は、可愛い女の子が、失恋をキッカケにたくましく、輝く美しさを持った女性に変わっていくエンターテインメント・ショートフィルム(短編映画)の傑作『ミステルロココ』を製作した日高尚人監督の登場です。

「ブラックで終わることが多いんですよ」という日高監督ですが、そこには人に対する温かい情感が感じられます。
ショートフィルムとの関わりの原点、映像制作に取り組むスタンス、さらに作品に込めた想い、などを聞いてみました。

………………………………………………………………………………………………

 

PART 1 ───────────
「映画祭で評価されたことで、
 スタートラインに立てた!と実感しました」

──日高監督の映画・映像との関わりの原点はどのあたりからでしょうか?

中学生のときに、クラスで「学芸会の出し物をナンにしようか」という話しをしたときに、「ロッキーの続編(当時の最新は4)ってどうよ?」と言ってしまったんです。そしたら、担任の先生から「じゃあ、オマエ、考えて来いよ!」ってことになってしまって・・・。

結局、脚本・演出など裏方全般をやる羽目になってしまったんです。映像ではなかったんですが、それがクリエイターとしての最初の“仕事”だったのかもしれませんね。

内容は、ちょっとロココにも通じるところがありますが、引退後、怠惰な生活のせいですっかり太ってしまったロッキーが、それが原因で息子がいじめられてることを知り、ボクサーとして再起を図るというもので、クラスメートに太った友人と、マッチョな友人がいたんで、ダブルキャストで、男子はすごくノッていったんですが、女子はみんな引いてましたね。ボクの作るのは、以来、それがずっと続いてる・・・?

──影響を受けた映画はありますか?

高校では、何かクラブに入らなきゃいけないことになっていて、「名作映画クラブ」という、ただ映画を2時間ほど見て、帰ってくるというきわめてユルい?クラブに入っていました。

そこで、高校1年のときに、最初に観た映画が『ローマの休日』。
衝撃を受けましたね。実はそれまで映画というものにあまり興味がなかったうえに「モノクロは絶対つまらない」決めつけてましたから、見事にガーンとやられました。それに、あの映画はオードリー・ヘップバーンでなきゃできない映画で、“奇跡のキャスティング”ってあるんだな、と思いましたね。

また、「ハッピーエンドじゃない!」というエンディングも、すごく影響を受けてます。
ボクの作品が、ハッピーじゃなく、切ない感じで終わる、ブラックで終わるものが多いのは、「ローマの休日」がひとつの“刷りこみ”みたいになっているからじゃないか、と思いますね。

──大学では、卒業製作映画がたいへんな物議を醸したそうですね。

そうなんです。当時は、Macなどはなく、アナログの時代だったんですが、デジカメ第1号だったカシオのQV-10と編集ソフトをバイトして購入。Macは自分では手が届かなかったんですが、親に「教材なんだよ」と偽って?調達し、それで卒業製作で、クレイアニメ(人形劇)のコマ撮り作品を作ったんです。

先生方が「なんだ、これは?」、「こんなこと教えてない!」という反応。
しかも、そのフィルムの内容が、ドラキュラをテーマとした『もう誰も愛さない!』という、ブラックで終わるものだったので、
「教育学部としていかがなものか」
と、学部長まで巻き込んだ問題になっちゃいまして、「留年して、ハッピーエンドのものを作れ!」と言われたんですが、「イヤです」と断ってしまいました。

一人の教授が、「なかなか面白いんじゃないか」、と3時間くらい他の先生方を説得してくれたんで、やっと卒業できたんです。
でも、その年、地元のテレビ局が大学の取材に来て、「学生たちは、こんな作品も撮ってます」と、唯一紹介されたのがボクの作品だったんですよ。

hidaka_1

──日高監督は「いきなり監督をやりたかった」そうですね。

確かに、現場で修業を積んで、段階を踏むというやり方もあるかと思いますが、実際、映画の現場で下積みをしていると、撮る時間がまったく取れないんですよ。
フィルムの時代から、デジタルの時代に入って、「自分で撮ろう」と思えば、それができちゃう。
「撮りながら学ぶ、という方法もあるんだ」と思って、撮り始めたんです。

人によっては、大きな作品に関わって、下のほうに名前が載るのがうれしい、ハリウッド作品に、はじっこでも関わりたいと思う人がいるかもしれませんが、ボクの場合は、そこにあんまり価値を感じません。小さな自主映画でも、監督として名前が出るほうがいい、と思ってました。

誤解の無いように言いたいんですが、監督という肩書きが欲しいという訳ではなく、自分で責任を負った作品づくりがしたいという意味です。監督はあくまで(現場での)肩書きにすぎないと思ってて、現場を離れたら監督と呼ばれるのが嫌なので呼ばないでって言ってます。だって偉そうじゃないですか。
もし、「監督をやりたい」と思っているんなら、ゼッタイ撮ってしまったほうがいい、と思いますよ。

──2004年に「NASH FILM」という映画製作のユニットを立ち上げていますね。

最初、デザイン会社で働いていたんですが、映画を撮る時間が作れない。それで、とにかく時間を作るために会社を辞めたんです。
自主映画を作って、何か賞に引っ掛かって、それを足掛かりにビジネスにできたら・・・と考えたんです。

嶋田高博君、菊地智治君と一緒に作ったのが「NASH FILM」というユニットです。
二人は役者志望で「(映画に)出たい」、僕は監督がやりたくて「(映画を)作りたい」。「出たい」と「作りたい」のが出会ったのは、お互いにとても良かったですね。自主映画をやるときに役者さんを探すのはけっこう苦労するんですよ。

嶋田君とは幼ななじみだったんですが、地元にいるときは、彼が何をやりたいのか知らなかったんです。大工になるものとばかり思ってたんですが、突然、「夢があるんで、東京に行く!」と行っちゃった。地元で「なんで?」と思っていただけでした。
あとから、ボクが東京に来て、彼が「役者になりたい」というのをはじめて知りました。

 

Nature Calls Me

“Short Short Film Festival 2005”の入選作『Nature Calls Me〜自然が呼んでいる』

 

──「NASH FILM」の最初の作品『ある男のラブストーリー』では、アストロデザインムービーコンテスト入賞。次の『Nature Calls Me〜自然が呼んでいる』では、“ショートショート フィルムフェスティバル 2005”の入選作となったのをはじめ、多くの賞をとっていますね。

自主映画を撮りはじめたときから、短編ではショートショート フィルムフェスティバルに応募して、評価を得ることが、ひとつの大きな目標になっていましたから、
「これでフィルムメーカーとして、スタートラインに立てた!」
という気がしました。

従来だったら、企画やシナリオをスポンサーサイドに送っても、担当者は「見てみよう」と思ってくれないかもしれません。そこに、受賞歴があって、受賞作を一緒に送ると、目に留まって、協力が得られることにつながってきます。
やはり、こういった賞をいただくことが、次の一歩を踏み出すために大きな原動力になるんですね。

 

hidaka_2

「NASH FILM」というユニットを得て、日高監督は意欲的な作品を次々と発表していきます。

独特のブラック・ユーモア、オチの効いた結末など、「見終わってアドレナリンが出る作品を作りたい」と日高監督は語ります。人との会話、おもしろグッズ、日常のさりげない風景などから「いつも、妄想してるんですよ」と話します。

 

PART 2 ───────────
「現場に入ると、飲まず食わずもぜんぜんOK。
 トイレに行くのも忘れちゃうんです」

──ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2005でもノミネートされた『Nature Calls Me〜自然が呼んでいる』では、“極楽便座”という衝撃的なグッズが登場します。

あの作品には、「癒しブーム」とか、「自然を売り物にする」世の中の動きを、皮肉な目で見て、警鐘を鳴らすという意味も込めています。「人間のいいように自然を加工するなよ!」という感じですね。

主題には「道具が人の運命を変える」というのもあるんです。
ドラえもん世代で、グッズ好きですから、ヤフオクなんかで面白いグッズを見つけるとけっこう買って、妄想?を日夜膨らませている。
あの便座も、ヤフオクで見つけて「これ、いつか使えるかも」と買ったものなんです。

── 劇場公開映画となった『キャラウェイ』は、11本のショートストーリーが収められている異色作でした。

あのときは、次のステップに進むためには、もう一回、映像の撮り方や演出の仕方を基礎に立ち返って学んでおくことが必要だな、と考えていたんです。

そこで、プチフィルムという企画を立て、
「いろんなシチュエーション、撮影1日、予算1万円くらい」
というかたちで脚本、プロットを貯めていったのです。会話劇にしたり、固定カメラで撮る、プロモーションビデオっぽくする・・・といった具合に考え、自分たちの教材にしようと思ってました。

11本ほどのプランがまとまったところで、「これ、スポンサーや協力してくれるところを探そうか」ということになって、ありがたいことに「機材だけなら貸すよ」、「配給するよ」と言ってくれるところが出てきてくれた、というわけです。

実はそれまでは、絵コンテを描いてなかったんで、その場その場でカメラのポジションを決めたり、「このシーンは、もう一度違う角度から撮っておこうよ」と、再度、役者さんに演じてもらったりしていました。
『キャラウェイ』の現場には、三世代で映画カメラマンをやっていらっしゃる能勢広(のせ・ひろし、注1)さんに来ていただいて、現場で撮影技術を教えてもらったり、ロケハンにも立ち会ってくれて、カメラポジション、アングルの決め方まで教わったんです。
カメラマンに伝えるために絵コンテは必要、ということもわかり、すごく勉強になりましたね。

 

注1:能勢広氏…フリー映画カメラマンとしてドキュメンタリーフィルム、短編映画、劇映画の撮影監督を数多くつとめ、大学やセミナーなどでプロの撮影技術の指導も行っている。日本ビデオ撮影アカデミー主催。

charaway

2007年劇場公開映画『キャラウェイ』 → 公式サイト

 

──11本の作品をいろいろなシチュエーションで撮っていくということに苦労はしませんでしたか?

3日に1本撮っていたので、次の準備も含めて大変でしたね。
ただ、1週間間隔が開くと、逆に「ダレて」しまってダメですね。テンションは高原状態でずぅーっといったほうがいいのかもしれません。

ボクの場合は、現場に入ると、飲まず食わずでぜんぜん平気ですし、トイレも行かなくても大丈夫といった感じ。
ドップリ入って、高いモチベーションを維持して、ワクワクしながら作る。なので、「メシにしましょう!」と言ってくれる冷静なスタッフが必要ですね。

──2010年には、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアに新設されたミュージックShortクリエイティブ部門の特別製作作品として『ミステルロココ』を発表し、大きな注目を浴びました。

土屋アンナさんの「Brave vibration」という曲を使って、プロモーションビデオにはない表現で、という点にこだわりました。「ミュージックShort」という新たなジャンルで指針となる作品を、という意識もありましたし・・・。

そのために、曲を徹底的に聴き込んで、設定や演出を考え、前半はファンタジックでソフト、後半はリアルでハードな絵に、途中で画面が大きく変化するという手法を採っています。
「熱く 強く」「wanna be tough」「まっすぐにkeep it going」「I can change my life」といったフレーズから、ロリータ、キラキラの主人公・ユリが、たくましく、ギラギラ輝いていくストーリーを発想しています。

misuteru rokoko_1 

「ミュージックShort」クリエイティブ部門 特別製作作品『ミステルロココ』 → 公式サイト

 

──後半の女子プロレスのバトルシーンも印象的です。

カメラ10数台で、いろんな位置からいっせいに撮影するといった作戦で行きました。カメラマンの能勢さんの発案です。
覆面MANIA (覆面レスラーによるプロレスエンタテインメント)』に協力していただいたんですが、試合後の会場ですし、観客は本物の皆さんに残ってもらって撮ったんです。だから、短時間で撮らなきゃいけないということもありましたし・・・。

それぞれのカメラで画質が相当違うんで、あとの編集で、カラーコレクションは大変だったんですが、低予算でも、スタッフと協力してくれた人たちのおかげで、いいエンターテインメント作品になったと自分でも思っているんです。

 

──ショートフィルムの良さって、どんなところにあると日高監督は思っていますか?

短い時間ですけど、その分、メッセージやパワーを詰めることができると思っていますし、その点では長編に負けない。
実験的な試みもでき、面白そうだなって思ったことをいろいろ試し、ワンアイデアでも撮れる。

最初は、脚本も、カメラも、アニメ作りも全部自分でやっていましたが、自分だけでやっているとそれぞれがどうしても65点で止まっちゃうんですよね。人と協力して、分業にすると確実にクオリティが上がるということもわかってきましたし、『ミステルロココ』ではできるだけ分業でやりました。
監督に必要なのはそれらをまとめて作品に昇華させる“バランス感覚”なのかもしれません。

作品のテーマだけでなく、手法、タイトル、オチなどで、どこか1か所、観ている側が「あっ、やられた!」と感じるポイントがあるとショートフィルムが活きる、と思いますね。
ボクも「笑えるエンターテインメント」の世界を追い求めて、これからも作っていきます。

(文責:編集部)

Information

プロフィール&データ──────────────────────

日高 尚人(ひだか・なおと)

1974年、岡山県生まれ。
デ ザイン会社勤務を経て、フリーに転身。2004年に3人で映像製作ユニット「NASH FILM」を立ち上げ、ショートフィルムを中心に、エンターテインメント系映画の製作に取り組む。現在、NASH FILMでは、映画の企画・脚本・製作をはじめ、企業のWEBサイト企画・制作、CM制作、各種映像の企画・制作などを手掛けている。

●NASH FILMhttp://www.nashfilm.jp

  • 日高 尚人       座右の銘:鳴かぬなら鳴く奴さがそうほととぎす
  • 嶋田 高博(雫 高徳)   座右の銘:人生一回
  • 菊地 智春       座右の銘:ナイスガイ

 

●主な監督作品:

2004年 『ある男のラブストーリー』

  • アストロデザインムービー入賞
  • 瀬戸内短編映画祭上映

2004年 『Nature Calls Me〜自然が呼んでいる』

  • ショートショート フィルムフェスティバル 2005 ジャパン部門ノミネート作品
  • 小津安二郎記念蓼科映画祭 入賞
  • 第3回ソウル環境国際映画祭 招待上映

2005年 『ファーストコンタクト』

  • アストロデザインムービーコンテスト 入賞
  • TSSショートムービーフェスティバル 入賞

2006年 『キャラウェイ』

2009年 『722』

  • ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2010「ストップ!温暖化部門」ノミネート作品

2010年 『ミステルロココ』

  • ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2010 ミュージックShort クリエイティブ部門特別製作作品
  • フランスJapan Expo2011、ドーハ・トライベッカ映画祭(カタール)、
  • ドイツ・フランクフルトNippon Connection、アテネ国際映画祭などで上映
  • ミステルロココ公式サイト〔http://www.mrrococo.net
  • iPhon、iPad用アプリ〔 → App Store
  • Andoroid用アプリ〔 → Android マーケット

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

日高尚人監督もクリエイティビティを刺激された
『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア』
映像作品募集中!!

 

『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2012』では
 下記の6カテゴリーにて、国内応募を受け付けています。

………………………………………………………………

  • [1] オフィシャルコンペティション ジャパン部門
      (※米国アカデミー賞短編部門ノミネート選考対象部門)
  • [2] NEO JAPAN(非コンペティション)
  • [3] 旅シヨーット! プロジェクト
  • [4] ストップ! 温暖化部門
  • [5] ミュージックShort部門
  • [6] CG部門

……………………………………………………………… 

●応募締切:2012年1月16日(月)……当日消印有効

●SSFF & ASIA 2012 作品公募ページ:
http://www.shortshorts.org/2012_call_for_entry/index.html